(1)家事の意義・目的
家事は、生活する上で基本となる行為であり、そこで生活する人の価値観や生活習慣が反映されています。専門職としての家事を行うにあたっては、単に技術やサービスの提供に留めるのではなく、利用者本人や家族のニーズに対応し、「その人らしい生活」が送れるように支援します。
介護保険制度における家事支援のサービスは、主に(介護予防)訪問介護における生活援助として提供されます。
これは、利用者本人ができない行為で、「直接本人の援助」に該当する行為を代行する支援になりますので、「商品の販売・農作業等生業の援助的な行為l「直接本人の日常生活に属しないと判断される行為」は生活援助に含まれません。
(2)家事に関する利用者のアセスメント
利用者の家事支援に関するアセスメントのポイントは、以下のとおりです。
・身体的側面
疾患の状態、既往歴、体調の変化
移乗・移動等のADLの状態
感覚器官の状態
生活のリズム
・精神的側面
家事の理解などの認知機能
家事に関する考えや希望、生活歴、習慣など
本人の意欲の有無
生活や家事へのこだわり
・環境的側面
広さ、和室洋室、1階2階など物理的な住まいの環境
利用者・家族の生活動線
家事に関する用具の状態
福祉用具
家族の有無、家事に関する能力・時間等
近隣との関係 経済状況
(3)家事に参加することを支える介護
家事は、利用者がそれまでの生活の中で培ってきたものであるため、家事のプロセスをアセスメントしていくと、利用者にできること発見できると思われます。
それが、利用者が家事に参加する機会となり、生活への意欲を取り戻すきっかけとなります。
介護従事者は、利用者が持っている能力を活用できるよう家事の方法を工夫し、利用者の意欲を引き出すことで、生活の活性化につながるよう支援することが大切です。
(4)家事の介助の技法1
◆調理
調理は、生命や健康を維持するために特に重要な食事に関する支援であり、介護従事者は、必要な栄養が摂取できること、安全に楽しく食事ができることのほか、利用者に意欲を持たせ、生活の質の向上や自立につながるよう支援することが必要です。
調理・食事の行為のプロセスは、①メニューの決定、②食材・調理器具の準備、③下ごしらえ、④加熱調理・味付け、⑤配膳、⑥食事(介助)、⑦下膳、となっています。
介護従事者は、利用者の状況を十分に把握し、利用者の疾患や服薬状況、その日の体調などによって必要となる専門的対応を行うほか、生活習慣や嗜好に配慮するとともに、利用者が主体的に関われるよう支援します。
調理支援における主なポイントは、以下のとおりです。
・利用者の嗜好・希望する食生活に配慮する。
・疾患、その日の体調に合わせた支援を行う。
・栄養バランス、摂取カロリーに配慮する。
・献立は利用者と一緒に考え、旬の食材をとりれる。
・利用者の状態に合わせた食材の形状に調理する。
・味見などで利用者が調理に参加する機会を設ける。
・食欲が増すように盛り付ける ・適温で提供する。
◆その他食生活に関する事項
①食生活指針
2000(平成12)年に文部省(現文部科学省)、厚生省(現厚生労働省)、農林水産省が共同で「食生活指針」を策定しました。
この指針には、食事内容のほか、食の楽しみ、家族のコミュニケーション、日本の伝統的な食文化など、献立計画から廃棄まで、食生活全般にわたる内容が示されています。
「食生活指針」を具体化するため、2005(平成17)年に、国民一人ひとりが何をどのくらい食べたらよいかをイラストで示した「食事バランスガイド」が公表されました。
②加工食品
調理の負担を軽減する手段の一つとして、加工食品の利用が考えられます。
加工食品には、味噌・醤油・納豆・ヨーグルトなどの発酵食品、冷凍食品、レトルト食品、フリーズドライ食品などがあり、嚥下困難者向けのものも販売されています。
これらのものを上手く活用して、時間の短縮や食事のレパートリーを増やすことも、家事援助の一つの手段です。
③配食サービス
全国各地の自治体やボランティア団体、民間企業などで、栄養バランスのとれた食事を定期的に宅配する配食サービスが行われています。
買い物や調理が困難な高齢者や介護の必要な人向けに、健康維持や自立生活の継続などを目的としたものですが、定期的に人が訪問するため、独居高齢者の安否確認の手段としても活用されています。
④食生活の変化
最近では、家庭内の調理の簡素化、個別化が進んでおり、中食、個食、孤食が増加しています。それぞれの意味は以下のとおりです。
「中食」とは、市販の惣菜や弁当、ファストフードを買って家で食べること。
「個食」とは、家族が一緒に食事をしていても、それぞれが自分の嗜好に合った別々のものを食べること・
「孤食」とは、家族とは別に一人で食事をすること。