1.人間理解と尊厳
介護福祉士として、利用者の尊厳を守ることは、大変重要な視点です。この科目以外でも、人間の尊厳にかかわることは重要なポイントになり、「利用者の尊厳を守り、自立を支援する」という介護福祉士の基本的な考え方に立つ問題は必ず出ます。
第26回問題では、「各法律における自立について」と「権利擁護に関する機関や制度について」の内容が、第27回では、「朝日訴訟」と「障害者差別防止法」、第28回では「糸賀一雄の“この子らを世の光に”という著書」と「アドボカシーの視点」から出題されました。
この科目では、人間の尊厳について規定されている重要な法律、語句の意味などを押さえておきましょう。
◆重要ポイント
・日本国憲法
第13条の「幸福権の追求」と第25条の「健康で文化的な生活を営む権利(生存権)」が人権条項として規定されています。
・ドイツのワイマール憲法(1919年)
世界で初めて生存権(社会権)を憲法に明記しました。
・世界人権宣言
(1948年)第1条「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と宣言。第22条では、人間の尊厳と自立を掲げ「社会権」が明記されています。
・国際障害者年
(1981年) テーマ「完全参加と平等」
・障害者に関する世界行動計画
「完全参加と平等」を実現させるための計画、1983年~「国連・障害者の十年」
・アジア太平洋障害者の十年
(1993年~)「国連・障害者の十年」終了後、国連アジア太平洋経済社会委員会で採択
※「日本国憲法」の人権に関する条文を示しておきます。 すべての法律の基本となるものですので、大まかには理解しておきましょう。
第11条【基本的人権の享有】
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
第13条【個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第14条【法の下の平等】
すべて国民は、法の下に平等であって、人権、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係におおいて差別されない(以下略)
第25条第1項【生存権、国の生存権保障義務】
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 2.国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
・この他、日本の福祉に関する法律の条文に「尊厳の保持」がうたわれています。
社会福祉法(第3条)
「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を宗利、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」
介護保険法(第1条)
「(要介護状態となった人が)その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、、国民の共同連帯の理念に基づき・・・・」
障害者総合支援法
「(障害児者が)その能力および適性に応じ、自立した日常生活または社会生活を営めるように必要な支援を行うこと・・・・人格と個性を尊重して安心して暮らせる地域社会の実現に寄与すること」
細かい条文までは、覚える必要はありませんが、大体の感じは掴んでおいてください。
また、介護福祉士の根拠法である「社会福祉士及び介護福祉士法」においても、第44条に「個人の尊厳を保持」が規定されています。
「社会福祉士及び介護福祉士法」はこの科目以外でも、いろいろな科目で出題されるので、必ず押さえておくようにしましょう。
「参考資料」の中の「社会福祉士及び介護福祉士法」に原文(抜粋)を載せてありますので、何度かチェックしてみてください。
尚、「社会福祉士及び介護福祉士法」の重要ポイントについては、別の科目で説明します。
◆重要語句
社会権
基本的人権の一つで、「生存権」「教育を受ける権利」「勤労の権利」「労働基本権」などが含まれ、社会的・経済的弱者の生活を守る権利
生存権
人間が、健康で文化的な最低限度生活を営むことのできる権利で、社会保障はこの生存権を保障するためのもの
「尊厳の保持」「利用者本位」「自立支援」「自己決定」などの言葉は大変重要なキーワードで、試験問題のどこかには、必ず出てきます(これらを肯定的に捉えているものは、必ず○ですので、むしろ正解しやすいと言えます)。
2.自立と自律
従来の高齢者・障害者の支援では、「訓練や援助により自立を実現する」という専門職主導の自立が中心でしたが、現代では、支援を必要とする人が単に弱者として援助を受けるのではなく、自分の意思・自己責任に基づいてサービスの利用等を決定し、自ら生活を営んでいくという「自立・自立支援」という考え方が重要なポイントとなっています。
ここでは、その「自立」の意味と「自律」との関係をしっかりと覚えましょう。
自立
自己決定・自己責任に基づき、生活を営んでいくこと。経済的自立、身体的自立、精神的自立などがある。また、「自律」を前提として「自立」が成立する。
自律
自立の前提となるもので、自分ので決めた規則によって自分を律する(制御する)こと。
自立支援
生活に支障のある人が自分の意思に基づいて活動することを支援すること。介護従事者側が優位に主導する考え方はNG。
このような「自立」の考え方は、1960年代後半にアメリカで始まり、その後1970年代にノーマライゼーション思想などとともにアメリカ全土から世界中に広まった「自立生活運動(IL運動)」によって生まれました。
当時の障害者には医学モデルに基づいた「経済的・身体的自立」が重視されていましたが、重度の障害を持っていても、障害者自身が(自己責任も伴った)自己決定に基づいて主体的に生活を送ることを「自立」として尊重するようになりました。
また、「自立」と「自律」のように、同じような言葉で少し意味の違う語句は、試験問題にし易いこともあって、大変よく出題されます。
このような語句はこれからたくさん出てきますが、この講座でも指摘していきますので、できるだけ覚えておきましょう。