(3)終末期における介護
身体的苦痛や不安が大きい中では、質の高い生活を送ることはできません。
終末期の介護では、利用者が、人生の最期までその人らしく充実した生活を送ることができるよう、できる限り苦痛を和らげるとともに、穏やかな気持ちで最期を迎えられるよう援助します。
終末期の介護の主なポイントは、以下のとおりです。
◆身体的側面からの支援
・苦痛緩和のため、できるだけ呼吸が楽な体位にし、必要に応じて体位交換をする。
・入浴ができない場合でも、部分浴や清拭を行い、身体を清潔に保つ。
・口腔内が乾燥するため、水分を補給するが、窒息の危険があるため無理に水分を与えず、水を含ませたガーゼで口腔内を湿らせる。
・痰が出やすくなり、窒息の危険もあるため、医療職と連携して痰の吸引を行うか、ガーゼなどで痰を取り除く。
・手足をマッサージするなどして、倦怠感を除去する。 ・下肢に冷感がある場合は、湯たんぽや靴下などで保温する。
◆精神的側面からの支援
・不安や恐怖、悲しみなどネガティブな感情にとらわれている場合があるので、傾聴に努め、共感的態度で接する。
・本人が大事にしている活動を優先的に行なえるようにする。
・聴力や触覚は比較的最後まで残るので、声かけや手を握るなどのスキンシップを行う。
・できるだけ家族と共に過ごせるようにする。
◆医療との連携
施設入所者の重度化に伴い、2006(平成18)年の介護報酬の改正により、介護老人福祉施設では「看取り介護加算」が導入されました。
看取り介護加算は、①医師による回復の見込がないことの判断、②24時間の連絡体制など、医療連携体制が確保されていること、③利用者又は家族との同意の下、看取り介護計画が作成されていることなど、一定の要件を満たした場合に算定できます。
高齢者の多くは、住み慣れた自宅で最期を迎えることを希望しています。
在宅でのターミナルケアでは、家族との時間を穏やかにすごせるよう、不必要な医療処置は行なわず、苦痛の緩和や不安の除去などを中心とした援助を行います。
在宅で介護保険の訪問看護を利用している利用者が、病状の急性増悪、終末期などで、頻回に訪問看護が必要と判断された場合は、特別訪問看護指示書が交付され、1ヶ月のうち、14日以内で毎日の訪問看護が利用できるようになります。
この場合は、介護保険ではなく、医療保険からの訪問看護の提供となります。
◆臨終時の介護
・安楽な姿勢の保持など、できるだけ苦痛がないよう、工夫する。
・窒息防止のため義歯ははずしておき、口腔内が乾燥しないようガーゼなどで湿らせる。
・家族や親しい人と静かに過ごせるよう、明るさ、室温などの環境整備を行なう。
・声かけは最期まで行う。また、不用意な発言をしないよう注意する。
・臨終時は、家族との別れの時間がとれるよう配慮する。
・死亡の確認は医師が行う。医師が死亡診断をした時刻が死亡時刻となり、他の者は判断できない。
・死後のケア(エンゼルケア)は、家族等との別れの時間が終了してから行う。
・エンゼルケアは、死亡診断後、死後硬直が起こる2~4時間までに行う。身体を清拭し、その人らしく美しく整える。
◆グリーフケア(悲嘆のケア、家族等への支援)
終末期においては、利用者だけでなく、家族も不安や悲しみなどの精神的負担や、介護量の増大による身体的負担を感じています。
家族もケアの対象者として位置づけ、利用者と過ごせる時間を作る、家族の悲しみや苦しみを受け止め共感するなど、利用者と家族が悔いを残さないように支援することが大切です。
「グリーフ」とは、悲嘆という意味ですが、身近な人との死別を体験した家族に対し、悲嘆から立ち直っていく過程をサポートすることを「グリーフケア」といいます。
グリーフケアにおける援助のポイントとして、以下のようなことが挙げられます。
・大切な人との死別に際して悲嘆することは、ごく自然のことであるという認識を持つ。
・利用者との関係や看取りに関し、罪悪感を持たず肯定的に捉えられるよう援助する。
・家族に対しねぎらいの言葉かけをする。ただし、助言をするのではなく、悲しみを共感するという聞き手の姿勢で行う。
(1)終末期における介護の意義・目的
終末期の介護(ターミナルケア)は、死を迎えるためのケアのことですが、利用者が死ぬまでの日々をできるだけ苦痛がなく、自己決定を尊重しその人らしく生きていくことを全人的に支え、QOL(生活の質)の向上を目指す重要な介護です。
終末期の人の苦痛には、①肉体的苦痛、②精神的苦痛、③社会的苦痛、④霊的苦痛の4つがあります。この4つを「全人的苦痛(トータルペイン)」といい、ターミナルケアでは、この4つの苦痛に配慮した援助が必要です。
終末期では、心身の状態が大きく変化しますので、医療職との連携が不可欠です。また、全人的な援助を行うための様々な職種が関わり、チームで利用者や家族を支援します。
チームケアでは、利用者、家族、チームメンバー全員が、ターミナルケアに対する合意ができていることが重要であり、利用者に関する最新の情報を共有している必要があります。
終末期ケアの考え方のひとつに、「ホスピスケア」があります。ホスピスケアとは、病気の治療を目的とするのではなく、極力痛みや苦しみを除去し、利用者の価値観・考え方を尊重し、最期まで質の高い人生が送れるよう、様々な専門職やボランティア等が支援するケアの方法です。
ホスピスケアは、緩和ケアを中心に行われていますが、緩和ケアとは、痛みや呼吸困難など身体的な苦痛のほか、不安や孤独など精神的症状、人生の意味や死生観などの霊的(スピリチュアル)な苦痛を和らげるためのケアのことをいいます。
(2)終末期における利用者のアセスメント
終末期におけるアセスメントの主なポイントは、以下のとおりです。
●身体的側面
・痛みや苦痛の有無とその程度 ・呼吸状態、循環状態
・栄養状態、食事・水分摂取状況
・排泄の状態、皮膚の状態
・ADLの状態
・服薬の状態
●精神的側面
・死に対する本人の価値観
・信仰の有無、霊的な痛みの有無
・やりたいことがあるか
●環境的側面
・終末期に対する家族の考え方、家族との関係
・支援体制
・住居等の物理的環境
●終末期における身体の変化
・呼吸
呼吸困難になり、一般に下顎呼吸(顎を上げてする呼吸)→鼻翼呼吸(鼻翼を拡げる呼吸)→チェーンストークス呼吸(早い呼吸と無呼吸を繰り返す)→呼吸停止となる。
・皮膚
皮膚色が青白く変化し、唇や爪、手足にチアノーゼ(血中の酸素不足により皮膚や粘膜が青紫色になる)が出現する。また、四肢や背部に浮腫がみられるようになる。
・脈拍
脈が弱くなりふれにくくなる、不整脈が現れる。
・その他
体温が低下し手足が冷たくなる、意識が低下し反応が少なくなる、尿量の減少、姿勢保持ができなくなる、などの兆候が現れる。
(3)安眠のための介護・安眠を促す介助の技法
◆安眠のための環境整備
安眠のためには、温度や湿度、音、明るさなど、寝室の環境を整えることが大切です。個人差はありますが、以下のような条件が快適な環境といえます。
・温度・湿度
季節や個人によって差はあるが、一般に温度は25℃前後、湿度は50~60%がよいとされる。
・音
話し声や足音、テレビの音などの生活音や騒音は、安眠の妨げになるためできるだけ避ける。ただし、心理状態によっては、生活音や音楽は安心感やリラックス効果をもたらし、安眠を促す場合もある。
・明るさ
夜間暗くなると、メラトニンというホルモンが分泌され、睡眠が促されるため、寝室は暗くした方がよいが、利用者の好みや夜間の行動にも左右される。
・寝具
人は睡眠中の体温を下げるため、コップ1杯程度の汗をかく。シーツやタオルケット、カバーなどは乾燥した清潔なものを使用する。
・ベッド
ベッドは、寝返りをうつために十分な広さのものを使用する。マットレスは、安楽な体位が保持できるよう、やわらかすぎず適度な硬さのものを使用する。
・枕
高すぎる枕は、頚椎が無理な形に曲がり、肩こり頭痛などのほか呼吸にも影響がある。首が15度程度上がりる高さで、寝返りがうてる長さのものを使用する。
・エアマット
褥瘡予防などのためにエアマットを使用することがあるが、エアマットの揺れや浮遊感のために船酔い現象が起きたり、マット上での動きを抑制し、寝返りや起き上がりがしにくくなるので注意が必要である。
◆安眠への援助のポイント
・生活のリズムを作り、日中活動的にすごせるようにする。
・食事や水分は、必要量を摂取し、寝る2~3時間まえには済ませる。
・就寝前に排泄を済ませ、夜間尿意があっても対応できるよう、尿器やポータブルトイレなどを準備しておく。
・飲み水やティッシュペーパー、タオルなど必要なものを準備しておく。
・かゆみや痛みがある場合には、処置等を行っておく。
・夜間の事故などにすぐ対応できるように、サポート体制をとっておく。
◆利用者の状態・状況に応じた介助の留意点
・認知機能が低下している利用者は、心身の異常をうまく伝えることが困難であり、不眠落ち着きのない行動をとることがあります。このような場合は、体調不良等がないかを確認し、できるだけ安心して落ち着けるような環境を整備します。
・運動麻痺のある利用者は、睡眠中の姿勢に注意し、麻痺側を上にして安楽な体位にします。ただし、長時間にならないよう、体位交換を行います。
・下肢等に冷感があれば、湯たんぽや電気毛布を使用しますが、低温やけどや脱水にならないよう、注意が必要です。
・不眠が改善されず、健康を害する恐れがある場合などには、医師から睡眠薬が処方されることがあります。
・睡眠薬を服用するときは、水か白湯(アルコールと一緒に飲むことは禁忌)で、指示された時間と量を守って服用します。眠れないからといって、自分で量を増やしたりせず、医師に相談します。
・睡眠薬の副作用で、足元のふらつきや眠気でぼんやりとした状態になることがあります。転倒の危険性が高くなりますので、介護者は、状態をよく把握して、環境の整備や見守りなどを行います。
・眠れるようになったからといって睡眠薬を急にやめると、退薬症状(禁断症状)が現れ、不安やせん妄、頭痛などが起こることがあります。薬をやめる場合も、医師に相談して指示をもらうようにします。