(4)家事の介助の技法5
◆家庭経営・家計の管理
家庭において日常生活を送る中で発生する様々な欲求を、消費活動を通して満たす行為を「家庭経営」といい、人、物、金、時間、生活支援を運用することを指します。
家庭経営を円滑に進めるためには、「家計管理」を適切に行うことが必要ですが、加齢や認知症などで、金銭管理が困難になると、他者の支援が必要になります。このような場合でも、できるだけ利用者の意思を尊重し、主体的にかかわれるよう支援します。
単身高齢者など、家族の支援が難しい場合は、成年後見制度や日常生活自立支援事業を利用することも考慮します。
家庭経営への支援のポイントとしては、以下のようなことがあげられます。
・金銭管理の方法について、利用者と介護者が一緒に考えて決める。
・金銭管理は計画的に行い、不必要なものは購入しない。
・通帳や現金、重要な証書などは、安全な場所に保管し、大金は持ち歩かない。
・家計簿をつける。 ・介護者は、通帳や現金は預からない。日常生活自立支援事業等を活用する。
・悪質商法等の被害に合わないよう、情報を提供し注意を促す。
最近、販売・勧誘に関する悪質商法が増加し、特に高齢者が被害に合うケースが多くなっています。
高齢者の身近にいる介護従事者は、悪質商法等に関する知識を持ち、利用者の生活状況に注意して、被害に合わないように心がけます。
万一、消費者被害に合ってしまった場合は,消費生活センターや国民生活センターに相談し、できるだけ早く対処することが大切です。
契約をしてしまても、一定の期間内であれば「クーリングオフ制度」によって解約することができます。
「介護実践に関する諸制度1 個人の権利を守る制度1」を参照してください。
主な悪質商法には、以下のようなものがあります。
・マルチ商法(連鎖販売取引、ネットワークビジネス)
商品を販売しながら会員を勧誘するとリベートが得られる仕組みで、消費者を販売員にして、会員を増やしながら商品を販売していく商法。
・催眠商法
狭い会場に人を集め、販売員の巧みな話術で、日用品等をただ同然で配り、雰囲気を盛り上げた後、高額商品を契約させる商法。
・ネガティブ・オプション(送りつけ商法)
注文していない商品を、勝手に送りつけ、受け取った以上支払義務があるとだまし、代金を支払わせる商法。
・点検商法
正規の点検を行っているように装い、トイレや床下などを点検し、「故障している」「シロアリがいる」などとだまし、商品の交換などを行って代金を請求する商法。
・霊感商法
「たたりがある」などと不安をあおり、単なる置物や印鑑などを、不当に高い金額で売り込む商法。
(4)家事の介助の技法3
◆掃除
住まいを清潔で安全に保つためには、定期的に掃除をすることが欠かせません。
しかし、掃除は家事の中でも身体的負担が大きいため、障害や加齢に伴い、困難になってきます。
介護従事者は、利用者ができることは行ってもらい、主体的に掃除に参加できるように支援しますが、利用者の生活習慣や価値観を尊重することは言うまでもありません。
掃除に関する利用者のアセスメントでは、身体機能や精神面のほか、利用者のやり方を尊重しえたうえで、利用者の健康を害する原因となっていないかなを把握する必要があります。
●掃除の支援
掃除の支援を行う際は、以下のようなポイントに注意します。
・掃除を行うための空間を確保する。
・掃除の方法や内容を利用者に確認する。
・利用者に確認しながら、必要なものと不要なものを分け、置き場所は利用者と一緒に決める。
・換気を行う。
・掃除機など掃除用具の準備をする(事前に紙パックがいっぱいになっていないかを確認する)。
・掃除はゆっくり、ていねいに、片付けながら行う。
・掃除機やほうきなどでごみやほこりを取り除いてから拭き掃除をする。
・拭き掃除は、汚れの種類や度合いにより、から拭き、水拭き、洗剤拭きを区別する。
・利用者の身体状況に応じて、できることを行ってもらう。
・利用者に参加してもらう場合は、転倒や無理な身体の使い方をしないように注意する。
・掃除が終わったら、ごみを決められた方法で分別する。
・地域のルールに従ってごみ出しをする。
●ごみ出し
利用者がごみを出せない原因には、作業が苦手、ごみの出し方や収集日がわからない、ごみを運ぶのが困難、などがあります。できるだけ利用者が主体的に行えるよう、原因に応じた工夫をします。
また、性格的なことなどから「捨てられない」ことも原因となっています。利用者の価値観を尊重しながら、納得して捨てられるように支援します。
●ハウスダスト
近年、ハウスダスト(住宅内の塵やほこり)に含まれるカビやダニ、花粉などが問題となり、アレルギー性疾患の原因となっています。
カビ・ダニともに、適度な温度と湿度、人のフケなどの栄養分があることが発生条件となっています。
最近の住宅の機密性の向上や、暖房、加湿器の使用が増加の原因と考えられています。
丁寧な掃除と十分な換気を行い、ダニの除去には直射日光に当てることが有効です。
◆裁縫
高齢者は身の回りのものに愛着を持ち使い続けたいという気持ちがある、身だしなみを整え社会性を保つ、転倒などの危険防止や動作の安全を確保する、などのことから、裁縫も重要な支援のひとつです。
裁縫も他の支援と同様、利用者ができる場合は行ってもらい、利用者の生活習慣や価値観を尊重して、主体的に参加できるように支援します。
ズボンなどのウエストのゴムの緩みや裾のほつれは、転倒などにつながり危険です。定期的に確認し、利用者からの希望がなくても、ゴムの交換、裾落ちの補修などを行います。
裁縫の支援は、以下のような手順で行います。
・衣類の素材と破損状況に応じた補修の方法を選び、利用者に確認する。
・必要な針や糸を準備する。
・用途に合わせた縫い方で補修する。
・利用者が行う場合、必要に応じて針に糸を通すなどの援助を行う。
・針などが紛失していないかを確認し、後片づけを行う。
縫い方には、以下のようなものがあります。
並縫い:しつけや仮縫い
半返し縫い:重ねた布を丈夫に縫い合わせる
本返し縫い:ミシンの代わりなどに用いる一番丈夫な縫い方
かがり縫い:ほつれや破れた部分を綴じる まつり縫い:ズボンの裾を留めるときに用いる
(4)家事の介助の技法2
◆洗濯
現在では、ほとんどの被服製品が家庭で洗濯することができるようになりましたが、様々な化学繊維の普及や、被服製品の化学処理の方法が開発され、以前より洗剤と繊維の適合や洗剤の量などに注意が必要になっています。
また、化学処理された繊維によっては、刺激性接触皮膚炎やアレルギー性接触皮膚炎などの衣料障害につながることもあり、注意が必要です。
介護職は、被服素材や洗濯の方法、洗剤の種類などの正しい知識を持ち、利用者の自己決定と自立支援に配慮しながら、支援を行うことが大切です。
①洗濯の方法
洗濯の方法には、手洗いと洗濯機洗い、湿式洗濯と乾式洗濯(ドライクリーニング)があります。
湿式洗濯は水を使う、通常家庭で洗濯機を使って行う方法です。
乾式洗濯は水を使わず、有機溶剤で洗濯します。毛や絹など水分を含むと縮んだり型崩れしやすい衣類の洗濯に適しています。
洗剤の主成分は界面活性剤で、汚れになじみやすい親油基と水になじみやすい親水基からなり、汚れを繊維から引き離す働きをしています。
漂白剤には、酸化型と還元型があり、酸化型には塩素系漂白剤と酸素系漂白剤があります。
酸素系漂白剤は、効力はあまり高くありませんが、色柄ものにも使用できます。
塩素系漂白剤は、効力が強く殺菌にも使用しますが、布を傷めやすく、絹や毛には使用できません。
還元型の洗剤は、酸化した鉄さびなども落とすことができ、金属汚れや塩素系漂白剤によって黄ばんだものを漂白することができます。基本的には白ものの衣類に使用します。
洗濯の支援を行う際は、以下のような点に配慮します。
・便や嘔吐物など、汚物で汚染しているものは、少量でも別に洗濯する。
・汚れの箇所や汚れ方、汚れの種類を確認する。
・洗剤は、適合するものを指示された量で使用する。
・繊維の種類によって、自然乾燥か乾燥機を使用するかを決める。
・乾燥機を使う場合は、乾燥時間と温度を調節する。
・できるだけ利用者と一緒に行い、利用者の身体機能、認知機能、感覚機能に合わせた方法を工夫する。
・利用者の意向や習慣等に配慮する。
・選択場所や物干し場の環境を利用者が使いやすいように整備する。
②アイロン
アイロンをかける際は、衣類に表示された温度で行います。
主な繊維に適した温度は、以下のとおりです。
・高温:綿、麻
・中温:毛、絹、レーヨン、キュプラ
・低温:ポリエステル、アセテート、ナイロン、アクリル
③しみ抜き
衣類にしみがついてしまった場合は、できるだけ早くしみ抜きを行います。
しみ抜きは、衣類を裏返し、しみのついた部分を下敷き布などの上に載せて水や薬剤をつけたガーゼなどで叩くようにし、しみを下敷き布に移すように行います。
しみのついた部分をこすって拡げないようにし、薬剤を使う場合は、目立たない部分で試してから行います。
基本的に、水溶性のしみは水または温水を使い、油性のしみはベンジンを使います。
水溶性:しょうゆ、ソース、紅茶、ジュース、血液など
油性:えり垢、口紅、クレヨン、ボールペン、チョコレートなど